FC2ブログ

師弟の関係性

武術の師弟関係で師の言うことは絶対です。
極論するなら、そこが何階であっても師に飛び降りろと言われれば躊躇なく飛び降りられる。そういう人間だけが弟子として扱われます。

そんなのグルイズムじゃないか、麻原にサリンをまけといわれて実行したオウムと一緒だ、思考停止だ、人権蹂躙だ、と思うかもしれません。しかし、それはちょっと違うのです。師は師である時点で人間としての人格はないからです。理、メカニズム、法の代理人、もっと身近でいえば役所の窓口のようなものです。

窓口に、武術を身に着けたいという人が申請に来る。私は、その人の携えてきた書類などに目を通し、こことここに不備がありますので直してくださいという。師の要求はそれだけです。私人ではなく公務としてやっている。
言い換えるなら、「武術家はそんなことをしない。それは武術的な考え方ではない」という場合のみ、指摘される。

武術的な考え方とはなんでしょう?
たとえば、こんなときです。

母親が「勉強して安定した仕事につきなさい。それが一番幸せなの」と言っている。
息子は「やりたいことをやるのが幸せなんだ。俺はロックンローラーになる!」と言っている。

こういうお話をどこかで耳にしたりドラマなどで見ていると思います。
すると多くの人は、「この意見は対立概念である。ゆえにどちらかが正しくどちらかが間違っている」と考えるのではないでしょうか? もっと簡単に言うなら、母親と息子、どちらかの意見を選ばないといけない気がしている。

が、魔術師が「二つのコップのどちらかにボールをいれました」と言う時、実はどちらにも入ってないように、この意見はどちらも正解ではありません。なぜなら、どちらの意見も「私がそれを幸せと思うから」という理由しか論拠がないからです。その点においてはこれらは対立概念ではなく同意見です。

武術の大前提は、「私がそう思う」ということと「実際にそうである」ということは一切無関係だということです。
我々が求めているのは確実に避けられる方法であって避けられる気がする方法ではない。かかる技であってかかると思う技ではない。
「思う」ということを行動の決定の指針にするというのはつまるところ、あてずっぽうということです。武術は答えに直結し、自分が答えそのものになることです。そこに「思う」という要素は一切入りません。

政治信念や宗教をはじめとして、なんでもそうですが、自分が正しいと思うことを絶対だと思う人は武術的ではない。それは本人は崇高なことをしているつもりであってもことごとく間違いです。
それは、孫娘がニシンのパイを好きかどうか確認せずに毎年パーティに送りつけてくるおばあちゃんのようなものです。100%善意であったとしても、受け取る側には迷惑でしかない。

余談ですが、少林寺拳法には「おのれこそおのれのよるべ」という教えがあります。自分以外を指針とするな、ということですが、これが成立するのも、「思う」ことを指針にしてないのが前提です。
自分が正しいと「思う」ことをよるべにしている私人が二人、道でぶつかったなら、互いに道を譲らず殺し合いになります。

つまるところ、武術をやるということは私人であるより前に公人であるということです。
師が公人であるなら、その弟子もまた私人ではありえない。そして互いに公人であるということは自他の区別がない。
師が命じていること=弟子が望んでいること=武術が要求していることの三位一体が成立しているので、事実上、理不尽な無理難題を押し付けられるということはないのです。

ただ、師は弟子より公人度が高いので、より抽象度の高い要求をする。それが弟子には意味が理解できず、理不尽に感じることがままあります。ベストキッド(旧版)で、師がワックス掛けとペンキ塗りをさせたときなどがそれです。弟子から見れば空手を教わりに来たのに雑用をさせられている、と考えるかもしれませんが、師から見ればそれは必要な訓練です。

白桃会の場合は修行は全て、遊行という形をとるので、それは将棋や散歩といった形式をとることもあります。
将棋はまさに、自分が正しいと思う手と実際に正しい手は違う、ということや、相手のコールに対応したレスポンスをするという訓練です。
また、散歩で言うならば、私は弟子に鉢植えや石などの中で、自分のイメージのものを選ばせる、景色の中から、その時何が印象に残ったかを聞く、ということをすることがあります。
これは、弟子が技を見ても原理の関連性がわからない。原理を見ても技への応用が分からないという欠点を埋める、事象の一般概念化能力の訓練でもあります。

そうした視座を持てるなら、生活全ての立居振舞いがそのまま修行であり、遊びになるでしょう。そうなったなら、弟子は独り立ちして、あらゆるものから学び、自己進化していきます。そこで師は役目を終えるのです。







コメント

非公開コメント