2008

01.04

« ドラネ・クロニクル3 イビルハート〜燃える男(やつ)ら編 »

大学に進んだ私は、武術系のサークルの中で、合気道を選びました。
当時、塩田剛三や佐川幸義といった人々のエピソードに心引かれていたのと、当身と組技の融和の一つの形として、「合気」というものが浮かび上がってきていたからです。
最小の接触点、最短の距離で動作した場合、当身と投げ技の境界はなくなっていきます。たとえば、足払いや突き飛ばしは、当身とも見れますが、相手を転がすことも出来ます。

私は、相手を転がすということに、空手部時代の経験から、高い価値を見いだしていました。
今で言う、パウンドやマウントパンチ、四点ポジションからの膝蹴りなどもそうですが、転倒している相手とは、身長差や体格差が無くなります。そして、地面に固定された相手は、試し割りのように、威力が逃げずに大きなダメージを受けます。これによって、自分が体格的に劣っていても、相手を弱体化、無力化することで、その差を無くすことができる訳です。
これは、自分の強さのみの追求に限界を感じていたところへの転換。相対的な強さの追求という発想でした。この、「相手を弱くする」という考え方は、ドラネコ商会の根幹ですが、裏返して、「相手を弱くする方法」は、自分がそういう状況にならないようにすることで、「強くなる方法」にも通じます。

合気道では、技術的なことではあまり感銘は受けませんでしたが、体や技の質的変化をもたらす鍛錬法には得るものが大きかったと思います。
そうした鍛錬などに関しては、ある先輩から多くのことを学びました。
この先輩は、独自にいろいろな研究をされていて、大東流佐川派の技の掛け方なども見せてもらったり、夜中の二時、三時まで公園などで稽古をつけていただきました。
先生も強い方でしたが、技術が高いというより、鍛錬によるポテンシャルの高さによる強さであって、必ずしも合気道でなくても良い気がしました。
極端に言えば、ただ出鱈目に殴り合ったとしても勝ててしまうだろうし、むしろ遠心力で相手を回して、崩して…といった手続きをしていることが足かせになっているように感じました。

やがて先生は、原点回帰として合気道の源流に近い大東流を筆頭にする柔術も学び、それを教えるようになりました。あるいは私が感じていたようなことを御本人も感じておられたのではないかと思います。
周りでは、合気道に比べて柔術は固くて力技のようだ、合気道だけのほうが良かったという声が聞こえましたが、私は逆に柔術の技は非常に面白かったです。どこがというと、固くて力技のようなところがです。

ある程度、登ってみないと見えない景色というものがあります。
立体迷路は、地上にいれば何処にいて、何をしているのかは分かりませんが、上から俯瞰すれば仕組みが分かります。

私は、それまでの経験から、なぜ柔術の型が固くて力技のように見えるかというと、それは一つの公案、方便であることを感じていました。
もし本当に力技であるなら、相手のほうが力で勝るなら、技は成立しません。そうした力比べのような状況下で型を成立させる事、無理を可能にすることが「術」なのではないか? そう考えた私は、その型を残した人間が、何を伝えたかったのか、どうしてこの手順、このやり方を選んだのかを、パズルを解くように推理していきました。
そうした発想は、振武館の黒田鉄山師範の著作の影響だと思いますが、基本的に無言伝授で行われる柔術の型の中に、流派全ての思想、技術が含まれていること、そこからどれだけの理を得て、高い要求を自分に課すかによって、外形上、同じ事をしているようでも稽古の質はまるで変わることに私は気付きました。
現在、ドラネコ商会では、よく使う投げ技だけで50種類以上はありますが、どれもほとんど即興的に生まれたものです。型をただ技の手順として外形だけをなぞれば、それはその一つさえ理解しえませんが、優れた理はその一つから無限の技を生み出します。

その他、芦原、円心の両流で指導員になった空手家の先輩と組手して、睾丸を蹴られて入院したり、失恋で失意のどん底に落ちたりしながら、やがて私の心は合気道から距離をとりはじめます。部分、部分では役にたったものの、これもまた、私の指針を示すということはありませんでした。

少林寺が、空手が、合気道が良い、悪いということでなく、私の中には自分でも全容は分からぬものの、何か水面下に武術の理想形のようなものがあって、私は自分の中のそれを引き上げたかったのだと思います。
たとえ、それが意外と小さな魚で、味も前に捨ててしまった魚より不味かったとしても、私は「それ」が立てる飛沫や波、時々浮かぶ影を無視できなかったのです。

そして、私はある日、「それ」を見える形で提示してくれる人に巡り会ったのです。

(つづく)

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